11月4日>>>午前>>
演奏当日。9時10分に来いといわれ、間に合うように宿を出発。ちなみにバスもあるそうですが日に数本と無いに等しいので、徒歩で。迷わないように大通りを通っていけば30分で着くと昨日教えてもらいました。シスターが、朝食の時間は決まっていないと言ったので、7時に行くとまだ暗い。暗い中でテーブルの用意をしていた方に、8時に出たいからと頼んでパンを出してもらって(早かったので昨日の残りだったそうですが)、暗闇の中、モソモソっとパンをかじり、持ってきたバナナをかじり、シリアルのクッキーをかじり・・・出発。
さて、行けども行けどもたどり着かない目印の通り。やっと通りを発見し、間近と思いきや会場は全然見えてこない。不安になりつつその通りに入って10分ほど歩いたところでまた事務局からの電話が。
「今どこ?向かってるところ?」
「そう。今○○通りを歩いているところ。」
「じゃあ、もうすぐね。そのまままっすぐですけど、わかる?」
「はい。」
「それじゃ後で。」
なに、今の電話?親切?私ってそんなに心配??まぁ確かに心配だろうけど、外国人だらけの参加者の中でイタリア語がすこし話せるってだけで大分マシだと思うんだけど。
結局15分くらい歩いて到着。9時10分ぴったり。新しくて綺麗な、いかにも文化センターらしい建物。入ると受付で待ち受けていた数人のスタッフが、
「カナ・キクチ(呼び捨て)!?」
「・・・はい。」
「次あなたのリハーサルよ。」
「え?リハーサル?私9時半じゃないの?」
「順番が変わったの。弾ける?」
…それで電話してきたのね。親切でもなんでもなかった。笑
とにかく弾けと言われたら弾くのがコンクール参加者。弾けるもなにも弾くしかないじゃないですか。ねぇ。で、リハーサル開始。
200席弱ほどかと思われるこじんまりしたホールで、ピアノは日本製カ○イ。久しぶりに弾くグランドピアノ、広いホール。それだけで幸せ〜〜〜〜な気分を味わって、いつのまにやらリハ終了。なんだか今までにないウキウキした本番を予感しつつ、練習室とやらに案内されました。併設された音楽教室のレッスン室が参加者にあてがわれた練習室だったのですが、アップライト一台に人が3人入れば満員な小さい部屋が4〜5部屋密集している、これまたいかにも音楽教室といった場所でした。とりあえず午前最後の演奏者である私は2時間以上の暇をもてあますことになっていたので、ありがたく練習しはじめたのですが…音大時代を思い出す騒音。しかも隣の人本選の曲弾いてるし。なんつー余裕。一通りその日にやる曲をさらって30分強で退散。外には部屋が空くのを待ち構えている参加者が数名いました。ホールで演奏を聴いたり談話室でぼけっとMDを聴いたりして、一人で過ごすこと数十分。審査が休憩に入ったらしく、ホールから人が出てきました。そこには3人の日本人女性が!(ちなみに韓国人も相当いたのですが、言葉を聞かなくても振る舞いや顔つきでかなり見分けがつくのだということがわかりました)録音のためのMDをセットする術を探していた私は、これはとばかりに彼女たちに声をかけてみました。みんな参加者でちょうど3人目の演奏が終わったとかで、これから外出すると言われ結局録音は頼めなかったのですが、彼女たち全員ヨーロッパで勉強中のセンパイ方。この出会いがこのコンクールをいっそう面白い経験にさせてくれました。
さて、自分の直前練習(こっちのピアノはスタイ○ウェイ。ちゃんとフルコン。なぜ…)もして、そろそろかと思い受付のスタッフにどうやって舞台に出て行くのかを聞きにいくと、「そんなに知りたいの?」という感じの顔つきで案内され、「前の人が出てきたら出るのよ」と当たり前のことを言われ、受付に戻った矢先、なんと演奏が終了。かばんを受付に置いたまま走って舞台袖へ。もうなにがなにやらわかりゃしない。上着なんか走りながら脱ぎ、舞台袖に投げ捨ててとりあえず舞台に上がり、座って、呼吸を整え…
弾き始めたら、おかしいほど夢中になっている自分がいました。ホールに鳴り響く音が気持ちよく、調律されたグランドピアノの弾きやすさ、コントロールの良さに感動するばかり。緊張もせずに、練習している時のような感覚で舞台にのってしまうという、妙な経験でした。練習の感覚、つまり頭は意外とクリアーだったのです。夢中になってウキウキ弾きながらもたくさんの反省点が見つかり、自分が良い演奏をしなかったことはわかってしまったのですがそれよりなにより弾けて幸せ、という。素人なんだか玄人なんだかよくわからない後味で15分弱の演奏を終了したのでした。
11月4日>>>午後>>
演奏を終わって、午後の審査の後発表があるというので、とりあえず散歩でもすることにしました。昼ごはんを食べて一度宿に戻り少しお休みして、街が動き出す3時半を回ってから再出発。シスターにもらった地図を頼りに、街のいたる所から見られた小高い丘の上に建つ城砦のようなところを目指してみました。街から見ると程遠く見えたものの、いざ行ってみると近い近い。城砦は中が有料の博物館になっていたのですが、月曜日でお休み。でも街の中で一番高いところから見渡す景色は、それだけで面白いものでした。このときは気付かなかった、というか気をつけていなかったのですが、見ていた景色の一部はイタリアではなく、スロヴェニアだったのですねー…東京では絶対にあり得ない、貴重な経験だったように思います。
さて、丘を降りて中心街をうろうろ。どうもお休みしている店が多いように感じたのですが、まぁヴェネツィアのように常に店が開いている街もイタリアではあまりないのかな。そうして会場に着いた頃にはもう陽は落ち、審査が終わって参加者たちが結果発表を待っているところでした。談話室でさっき出会った日本人たちを見つけ、一緒に待つこと数十分、結果が発表されて私は予選落ちが決まったわけですが、なにはともあれ国際コンクールというやつを経験し、それも楽しい演奏と観光つきで、留学生仲間や優しいシスターとも出会い…舞台で自分が良い演奏家としてパフォーマンスできなかったことはよーーーくわかっていたので、悔しさよりも、本当に満足、という感じで結果を受け入れてしまえたのでした。
さて、発表の後。その日の夕食は一人ではなく、出会った日本人たちと一緒にオステリアへ。門構えがひっそりとしていい感じの店で、客の入りも上々、店員も忙しそうにしながらも愛想よく、当たり!?とウキウキしつつ案内されるがままに席へ。すると店員さんが突然、「何を召し上がります?今日のラインナップは、前菜に○○○、●●●、パスタは、、、、、」とメニューの説明をするではありませんか。
「メニューを見たいんですけど。。」
「メニューは作ってないんです、毎日その日の食材によって違うものを出してるのよ。」
はぁー、なるほど。素晴らしいじゃないですか。。
でも、料理名ってまだよくわかんないし、このグループでイタリア語はなせるの私だけだし、この店員がドイツ語やフランス語や英語や日本語が話せるとは思えないし。。。この状況ではそういうこだわりはちょっと置いといてほしいなぁ。
とりあえず、わかるところだけ通訳しつつみんなの食べたいものを逆に注文してみることに。それにしてもいくら取られるんだろう、とか不安になりつつ、まぁ本番が終わったびくらいいいか、と思ったら。10ユーロ強で足りてしまいました。ヴェネツィアでのピザ一枚分の値段で、ミネラルウォーターとワイン、パン、サラダ、ローストビーフ、デザートにコーヒーまで。なんて素晴らしいんだろう、この街。しかも滅法美味しかったし。サービスにも時間はかからなかったし。来てよかった。笑。
さて、一緒に食事をした日本人ピアニストたちのうち一人が、コンクールついでにヴェネツィア観光を予定していたことがわかり、我が家にしばらく滞在することになりました。まさかここへ来て、友達になった日本人がさっそく泊まりに来るとは思いもしませんでしたが、これもヴェネツィアという土地柄でしょう。夜も更け始めたことで、彼女とは翌日コンクール会場で会う約束をし、解散したのでした。スオーラで翌日チェックアウトすることを告げると、シスターが精算をすませてくれました。また来年いらっしゃい!と心強いお言葉。当然といえば当然ですが、チェーンの大型ホテルとも家族経営の小さいホテルとも違う、独特の雰囲気がこのスオーラにはありました。イタリアで女子学生寮に泊まったこともありましたが、やっぱり同じ寮でも違いを感じます。シスターたちは手も心も暖かく、多くのイタリア人によくある「なぜか機嫌が悪い」「なぜかそっけない」というのがなかったからでしょうか…